▼太平洋戦争末期の沖縄戦で、特攻作戦により戦死した穴沢利夫大尉=当時(23)=は出撃前、婚約者の女性に手紙を送っている。〈あなたの幸せを希(ねが)ふ以外に何物もない〉

 ▼生きては帰れない過酷な作戦。自身が死んだ後のことを憂い、最後の手紙で〈勇気を持って、過去を忘れ、将来に新活面を見いだすこと〉を婚約者に望んでいる

 ▼旧陸軍の特攻作戦による戦死者は1036人で、うち本県出身者は24人。主に九州から出撃し、鹿児島県の知覧基地からは最多439人の死者が出た

 ▼基地の跡地には展示施設の知覧特攻平和会館があり、隊員の遺書や手紙を紹介している。家族への思い、使命感、無念さ。文面からは、命を兵器とした無謀な作戦の下、出撃していった隊員たちの心情がにじむ

 ▼先日、現地で語り部の講話を聞く機会があった。「時代にもみくちゃにされた国民がいた。どうにもならなかった時代があった。その先に今の平和があることを忘れないでほしい」との穴沢大尉の婚約者の言葉を紹介していた

 ▼現在の世界に目を向けると、ウクライナやパレスチナ自治区ガザなど紛争は絶えず、罪のない市民や子どもたちが犠牲になっている。年の瀬を迎え、新たな年が平和であるようにと願いながら、語り部の言葉を思い返す。あすを生きようにも生きられなかった時代があったことに思いを巡らせ、平和の意味をかみしめている。